さらに欲をかくなら

Sebastian WagnerによるPixabayからの画像 4.投資

はっきりしていることだが、バートン・マルキールが著書「ウォール街のランダム・ウォーカー」で述べた通り、どんな優秀で能力を持った、しかも先見の明がある投資家も、長期で投資を行えば、その利益率は「良くて」市場平均に収束する。
ならば、売買を行った回数、つまり証券会社に払った手数料分だけ、天才の投資による利益率は市場平均を下回る。これは研究結果として出ているある種の「事実」だ。

そうでない、と信じる者は、今日もウォール街のみならず、東証や深センや香港やロンドン市場でレバレッジの効いたタイトなマネーゲームを繰り返している。

市場平均を超える。AIによる高速売買が一般化した今、人間でかつ素人の私などには、市場の中につけいる隙などありはしない。チャールズ・エリスもその著書、「敗者のゲーム」ではっきりとそう言っている。

では、投資にはもはや、市場平均をこつこつと積み立てる以上の夢は眠っていないのだろうか?

――正直、ここからは「お話」として読むに留めておくほうがよい、と思う。
まかり間違っても実践しよう、とは思わないことだ。

まず一つ目。
市場におけるファンド(金融商品)には、いくつか「レバレッジ」の効いたものが存在する。
日本市場で言えば、日経ダブルインバースや、ブル3倍日本株ポートフォリオVなどがそれである。レバレッジとは「てこ」という意味で、つまるところ上昇(下降)分を2倍、3倍にして還元できるように設定されたファンドのことである。
こういうのは投資ではなく「投機」――つまり、ばくちと同じものである、と思った方がいい。

二つ目。
企業は上場する前に、いくらの株価で上場するかを決定し、重要な役員や株主に(通常、50%以上を)持分として渡している。そして、その残りを証券市場に出すわけだ。この、新たに上場される企業が売り出す株式のことを、”IPO”、「IPO株」と呼ぶ。
こちらのサイトによると、2020年においては、コロナの影響が大きかったにも関わらず、おおよそ74%の新規上場企業のIPO株が、初値を超える株価をたたき出したそうだ。
IPO株を買い、上昇後すぐに売り抜けるだけで、74%は儲かる、ということだ。
ただし。
IPO株の購入権は「抽選」方式で決まる。そしてこれが、なかなか当たらない。これがデメリットといえばデメリットである。

三つ目。
少し長い話になってしまうが、企業には、上場されている株式会社以外にも、株式会社が存在する。いわゆる、「ベンチャー企業」などと呼ばれる、生まれて間もない、若い企業などだ。(もちろんこの他にも、上場に至っていない中小の企業などがそれこそ、星の数ほどあるわけだが)
このような若い企業を、その成長ステージによって四種類に分類する。
シード期。アーリー期。ミドル期。レイター期。

このベンチャー企業が、一番「大きく」評価される時はどこだろうか。ということを考えてみる。
シード期は、ようやく会社を立ち上げたところ。
アーリー期は、会社が軌道にのるまでの一番きつい期間。
ミドル期は、会社がどうにか軌道にのり、拡大していくところ。
そしてレイター期は、より大きな拡大路線を打ち出し、新規事業に向かうため、上場を狙う時。
……言うまでもなく、市場なり投資家なりが、一番その会社を大きく評価するのは、この「レイター期」である。

この、レイター期。実は恐ろしい爆弾を秘めている。
難しい話をすっとばして要点だけ言うと、レイター期の「上場」に向けてその企業の「企業価値評価」をする際。
その企業が今持っている資産だけを価値として計算すると、ちんけな数字しか出ない。なので、DCF法という、「その企業が将来生み出すであろう未来のキャッシュ」を計算して企業価値評価に組み入れる、ということをする。
こうすることによって、例えば1千万しか資産を持たない企業の価値が、5億円、と、このように算出されたりするわけだ。
そして、IPOとして上場する以外にも、他企業の買収、つまりM&Aにおいても、このDCF法による企業価値がものを言う。IPOやM&Aは、ベンチャー企業のゴール。上がり。目標。そのようなものなのだ。
だから。
たとえば、VC(ベンチャーキャピタル……ベンチャー企業を上場させるために投資したりコンサルしたりする企業のこと)などがこの「レイター期」の株式を取得し、最終的な利益とするのだが……。
もし。我々一個人が、この「レイター期」直前の株式を取得できたなら……?

妄想は自由だ。
誰にも邪魔する権利などない。
しかし、それを実現しようとするならば、多くの「夢物語」を通り過ぎなければならない。

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