融資依頼まえの準備 ~経営シミュレーション~

Gerd AltmannによるPixabayからの画像 1.創業計画

まずはさっそく、日本政策金融公庫のサイトから、創業計画書(エクセルファイル)をダウンロードしてみましょう。

この計画書を開いてみると、わずかA3用紙1枚の内容であることにまず、驚いていただきたいところです。
ここでも、相手の立場になって考えてみることが重要です。
投資家への計画書ならば、自分のすごさを相手に分からせ、時にはねじ伏せるためにも、ところどころブラフをかましながらでかい花火を打ち上げる……つまりは重厚な計画書をパワポなどで見栄え良く仕上げることも必要かも知れません。
……いや。実のところは違うのです。
「ピッチ」という言葉を聞いたことがあるかも知れません。投資家が観客席に陣取る中、起業家が一人ずつ壇上に上がり、自分の事業を「売り込む」イベントのことです。商売の国アメリカにて主流のやり方です。
ピッチには時間制限があります。また、そうでなくてもおおよそ10分程度で、投資家は起業家を「見切り」ます。
逆に言えば、10分で心をつかめない時は、その起業家はお金を得るチャンスを失う、というわけです。

政策金融公庫や他の金融機関の融資担当者を相手にするときも、同じことです。きっとその担当者さんは、一日に何件、ことによると十件以上もの案件を抱えつつ起業家さんの相手をするはずです。そのような相手に大上段からご高説を長々と披瀝するのが悪手であることは、自明です。実際、その通りなのです。

逆に言うならば。
優れた創業計画書は、A3一枚程度にぎゅっと詰めこめるくらいの情報量(ただし、質は上げる必要があります)でよい、ということなのです。

さぁ。
では次に、実際に創業計画書に「何を」書けばいいのか。その項目についてざっと見ていきましょう。
項目は、以下の8つです。

1.創業の動機
2.経営者の略歴等
3.取扱い商品・サービス
4.取引先・取引関係等
5.従業員
6.借入れ状況
7.必要な資金と調達方法
8.事業の見通し

無駄なことを書くスペースはありません。なので用紙の欄を埋める前に、まず自由に自分の意図するところ、思いの丈を全部、ノートなどに書き出してから校正する、という書き方をします。
これはまた、ノートに今自分が想定しているお店(事業)をまとめることで、実際経営がスタートしたときのシュミレーションをする、という意味もあります。

是非、ノートをご用意ください。そこに、上記1~8の項目を、洗いざらい書き出していきます。
本当は、1から順番に書いていくものでしょうが、ここでは「経営シュミレーション」という意味合いを重視して、経営計画を立てるつもりで書いていくことをお勧めします。ので、書き出す順番は多少、前後します。また、この回では触れない項目もありますが、それは次回分にまわすことにします。

【創業の動機について】

まずは、1です。
創業の動機。
まずは思いつくままノートに書き綴ってください。なぜ飲食を? なぜ、イタリアン・和食・中華・ハンバーガー・スローフード・ファストフード……を? たくさん業態があるなかで、なぜ「それ」を商売にしようと思ったのか?
これを書き出していきます。
書いているうちに、自分の中にあった考えの「核」が見えてきたらしめたものです。書き出した内容を自分で眺めてみて、

・お客様に喜ばれたいのか?
・とにかく、儲けたいのか?

どちらのエリアに傾いているのか。自分の気持ちをよく、見切りをつけておいてください。
できれば、両方を満たすことが望ましいです。しかし、経営をすると、あちらを立てればこちらが立たずなできごとは山ほどでてくるはずです。
その時に、この「創業の動機」を振り返って、「これが実現できてないのなら、店を辞めてやる!」という、いちばん自分にとって大切にしているものを見つけだしておくことです。
経営判断に迷ったとき、最後に戻ってくる「理念」の部分です。
決まったら、ノートのその箇所に、分かるように○をつけておきます。まだ創業計画書には記入しません。

まとめ
まとめ

これだけは譲れない! という理念を書き出しておこう!

【取扱う商品(メニュー)と、価格設定、及び限界利益率の計算】

次に。3と8について、同時に考えていきます。
ノートの新しいページをめくり、まずは、土地代、店舗改装費、内装デザイン費、厨房機器代……などは、上限をいっさい考えずに、「全て理想のものが手に入る算段」前提で、全てノートに記入していきます。
仕入額も、現在想定している取引先と通常交渉した場合を念頭において、金額を決めます。
(まったく考えなくてよい、ということではありません。とにかくまずは日常のお店の売上を立ててみて、その結果土地代等の、のちのち費用・負債となる項目がクリアになるかどうかを考え……また売上を考える、というふうに、何度も交互に計算しなおす、ということをしていくのです)

ここまで準備出来たら、まず一番重要なこと。
あなたのお店の、商品。メニューと価格をざっと、決めていきます。
シュミレーションなので、思いついている額でそのまま、書いていきます。(後でじっくり、修正することになります)

このシミュレーションをする上で、いくつか会計的に知っておいた方がいいことばがあります。
それらについて説明しながら、ざっと「売上・利益の見積もり方」を語っていこうと思います。

これから売ろうと思っている商品(つまりは、メニュー)の名前と価格は、近隣の店との比較や仕入原価等の情報が分かっているならば、より妥当な値付けが出来ると思います。全て税込で考えておいて、あとで税抜き金額が必要なら、8%、もしくは10%を減じてやればいいでしょう。
正確には、以下の式に当てはめることで、内税→税抜き価格が出ます。

{(内税価格) ÷ (100 + (税率))} × 100 = (税抜価格)

例として、内税800円の商品(税率8%)ならば、

(800 ÷ 108) × 100 ≓ 741 (円)

が、税抜き価格となります。

そして、そのメニュー票の上に、「1月あたりの平均客数」を書き込みます。ランチ営業をするなら昼と夜で分けて書きます。今まで勤めていたお店や、経営されていた別のお店、また、分かるなら、近隣のよく似たお店での客数等から類推し、2月8月などの売上の悪い月、また新年会忘年会等の繁忙期など、全ての月について概算してから合計を出し、12(月)で割れば、さらにリアルな数字になることと思います。

次に、客単価を考えます。
ここは、あなたがこれまで培ってきた「経験」がものを言う場面です。もし手探りならば、自分が目指す飲食店と似たような業態のお店に行き、実際に料理を注文してみる、なんてことをしてみてもいいかもしれません。ランチ営業ならたとえば、日替わり一品で全部同額、等の値付けになるかと思います。都心やターミナル駅周辺のビジネス街なら1,000円くらい取れるでしょう。
夜がメイン営業となると思います。低価格帯から高価格帯まで取りそろえ、低単価のお客様、高単価のお客様どちらにもある程度満足出来うるような値付けが好ましいですが、虻蜂取らずになってもいけません。オーナーとしてのさじ加減の見せどころです。

さて。昼と夜それぞれの「一月の平均客数」×「客単価」を計算することで、一月分の「売上」が出ます。分かる箇所に書き込んでおきます。式にすると、こうです。

(昼営業客数) × (客単価昼)+ (夜営業客数) × (客単価夜)= (売上)

今度は、今出た「売上」のことはいったん忘れ、メニュー表の横に「一月あたり売れるであろう品数」を書き込んでいきます。
お店が一番売れて欲しい品物と、お客が一番頼む品物は得てして違っているものですが、シミュレーションなので自分の思う数でよいです。
書き終わったら、その「品数」と「価格」をかけて、これを合計します。
すると、これまた、一月分の「売上」が出ます。式にするとこうなります。

(商品Aの販売数)× (Aの価格) = (Aの売上)
(商品Bの販売数)× (Bの価格) = (Bの売上)



(商品Zの販売数) × (Zの価格) = (Zの売上)

(A~Zの売上の合計) = (売上)

上記二種類の「売上」が、乖離しているようなら、どちらかの見積もりがおかしい・甘いです。
自信がないほうの数字を見直し、両者がほぼ一致するまで続けましょう。

大変ですが、計算はまだまだ続きます。
「売上」が出たので、原価率(おおよそ30%と見積もります)をかけて、「仕入原価」を出してみましょう。

(売上) × (原価率÷100) = (仕入原価)

さて。
この仕入原価を出したら、いちど立ち止まってみてください。
そして、想定している月の仕入原価と比べてどうなのか、考えてみましょう。
想定仕入原価より低い値、式にして

(想定していた仕入原価)> (計算して出た仕入原価)

ならば、あなたのお店は原価率30%以上、つまり、原価率が高い、ということになります。
原価率30%というのはいわば理想であり、全部が全部そううまくいくわけではありません。
ざっと全部の料理を原価率30%で出したことになりますが、個別に見ていくと、原価のかかる料理、かからない料理に分かれるのが普通です。
ここは考えどころです。
もし自分の値付けに自信があるならば、面倒ですが、個々のA~Zの商品に対して個別に原価率を計算し、A~Zの個々の仕入原価を出した上で、これを合計して全体の仕入原価を出してみてください。
これで、納得のいく仕入原価が出れば御の字です。
そして、もしもせっかくここまで計算してくださったのなら、さらにもう一歩だけ踏み込んで、ご自分のお店の「強み」となる商品を見つけてみてください。
「強み」となる商品、とは、原価率のわりに高価格が取れそうな、そんなずうずうしい(笑)欲求を満たしてくれる商品のことです。これがあると利益の取れ幅が違います。

ここで、一つの意識が生まれます。
「自分のお店は、原価率が高い(低い)お店だ」という意識です。
のちのちの計画を考えるのに使いますので、覚えていてください。

次に、「販売費及び一般管理費」について考えます。
会計上の販売費及び一般管理費とは、ここではやや定義を変えて説明いたします。その方が、以後のシミュレーションがしやすくなるからです。
本項では、変動費を販売費固定費を一般管理費として考えます。

・変動費:A~Zを売ると、それに伴って売れれば売れるほどかかってしまう費用のこと
・固定費:A~Zの売上の多寡にかかわらず、固定で必ずかかる費用のこと

きちんと区分しようとすると難しいですが、現段階ではある程度ざっくりで構いません。ここでのキモは、「商品が売れたら売れたほどかかる費用」か、「売上に関係なく一定比率でかかる費用」か、という費用区分をする、ということです。

今思いつくままの費用をノートに書いていき、横にそれが販売費なのか、一般管理費なのかをメモします。例を挙げれば、テイクアウト用の容器代は販売費。人件費は一般管理費……のような気もしますが、飲食業は人件費の比率が高いのと、業務が忙しくなるほどスタッフ数が増えることも考えると、販売費と考えた方がしっくりきます。建物の賃貸費用は一般管理費。仕入をする際の送料あるいは自分の車のガソリン代なんかは、販売費と考えていいでしょう。

なお、仕入原価は販売費となりそうですが、これは敢えてこの二つには含めず、「仕入原価」としてそのままにしておきます。

この「販売費及び一般管理費」を考え、算出しておくと、のちの創業計画書の3、8はもちろん、7の「必要な資金と調達方法」を書く上でも非常にラクになりますので、例を挙げて詳しく書いてみることにします。こんな具合です。
(数字は架空のものを使用しています。あなたの起業するお店の実態に即した数字を入れていってください)

修 繕 費:販 売 5
容 器 代:販 売 12
仕 入 運 賃:販 売 7
水道光熱費:販 売 15
社 員 給 与:販 売 80
雑   費:販 売 12
旅費交通費:一般管 3
広告宣伝費:一般管 30
社 長 報 酬:一般管 30
地代・家賃:一般管 20
通 信 費:一般管 2
接待交際費:一般管 3
保 険 料:一般管 2
リ ー ス 費:一般管 2

(単位:(万円))

ざっと挙げましたが、もっとあるかも知れません。それぞれのお店に合った、実態に即した数字であるのが理想です。(変動費と固定費を分けたため、雑費が表の中程に記載されています。ご了承ください)

この作業によって、販売費、そして一般管理費の項目が洗い出されたはずです。
ここで、会計上重要な項目(会計の場合は、「科目」……「勘定科目」というような言い方をしますが、ここでは項目で統一します)について少し、書いておきます。

上記の「売上」から仕入原価を引くと、粗利、つまり売上総利益が出ます。
売上総利益から販売費を引くと限界利益が出て、さらに一般管理費を引くと営業利益が出ます。
注目すべきはこの「限界利益」です。これを出したいがために、今がんばっている、といっても過言ではありません。
もしあなたが先ほど仕入原価を出した過程で、原価率30%でまるめて出しておらず、A~Zの個別の原価率を試算していたのなら、限界利益はA~Zの個別の商品ごとにでることになり、後に価格設定を見直す際に非常に有益です。では、なにはともあれ、やってみましょう。

(売上) ー (仕入原価) = (売上総利益)
(売上総利益) ー (販売費) = (限界利益)
(限界利益) ー (一般管理費) = (営業利益)

それでは、仮に売上を300万円、仕入原価を90万円として、上記販売費及び一般管理費の数字を借りて、限界利益額を出してみましょう。

300 ー 90 ー (5 + 12 + 7 + 12 + 15 + 80) = 79 (単位:(万円))

限界利益額は79万円とでました。ではこれを元に、限界利益率というものを出してみます。限界利益率は、以下の式で表せます。

(限界利益額)÷ (売上) × 100 = (限界利益率)

上記の数字を当てはめると、

79 ÷ 300 × 100 ≓ 26.3 (単位: %)

となります。
ちなみに。この限界利益率が25%を下回ると黒字化自体が難しくなる、と言われています。
(※参考資料 以下の書籍を参考としました)

「数字」が読めると本当に儲かるんですか? 古屋悟司・ 田中靖浩

できれば、限界利益率は30%以上となるように設定できた方がいいです。なぜなら、ここからさらに固定費や、のちのち政策金融公庫等から借りた借入金を「返す」お金も視野に入れなければならないからです。なので、上記26.3%という数字は、不合格とはいかないまでも、「見通しが甘い」数字である、と言わざるを得ません。

まとめ
まとめ

限界利益率が「30%以上」となるようにがんばってみよう!

【限界利益率を30%台に持っていくために、考えること】

さきほど、仕入原価を計算した際。あなたのお店の原価率は高かったですか? それとも低かった?
原価率が高いお店となっているなら、まずは実際の原価率を下げる方策を考えることが適切です。
仕入れ先を見直す。原材料の量を減らす。外国産を試してみる。似たような安価な原材料に変える。等……。あんまりやり過ぎると、あなたのお店のメニュー自体の強みが薄れてしまう可能性もあります。味の劣化を招かない程度に、試行錯誤されてみることをお勧めします。

原価に問題がないのなら、問題は価格にあります。つまり、お店を維持できる商品価格は、あなたが想定していたよりも高く設定する必要がある、ということです。
(客数、客単価についての考察は、ここではひとまずおいておきます)

恐ろしい話ですが、飲食業は現状、薄利多売が常態化している業態、と言わざるを得ません。
なので、高価格帯を設定するということは、そのままお店の首を絞めることになりかねないのです。
あなたのお店で、例えばラーメンを出すと考えたとき。
近隣の別のお店で700円の醤油ラーメンを売っているならば、同じエリアで800円の醤油ラーメンを売るときは、ある程度自分のお店の醤油ラーメンに強み……あごだしやふぐだしなど高級食材を使用している、とか。チャーシューが他店と比べて目立って大きい、とか……がないとお客は来てくれないだろう、と思うことでしょう。
710円や715円ならまだ勝負になるかもですが、760円だとどうか……? 
値段というのは、無尽蔵につり上げると、客数はいきなりぱたっと0になるライン、というものがあります。
だからといって、同業他社と同じく薄利多売の海に突っ込んでいくのも感心しません。さきほど計算したように、限界利益率が25%未満の商品は、だいたい売れば売るほど赤字になる商品に堕しています。数字は残酷であります。

「じゃぁどうすればいいんだ!」
ということです。

まず第一の前提として、価格は、安く出来るぎりぎりのところで、しかし出来るだけ高く設定する、というバランス感覚が必要となります。飲食業に限らずですが、創業後、つまり後からの値上げというのは、心理的にも接客を考える意味でもハードです。
値上げすると、それまで利用していたお客はごっそり去って行く、というデータもあります。
その後、新しく値上げした価格でよしとするお客に「入れ替わる」まで、お店は閑散とした状態が続くでしょう。ここを、どうにか乗り越えなくてはなりません。
にっちもさっちもいかなくなって場当たり的に値上げをする、という無計画な方法だけはとらないように、創業前に値付けを吟味し、準備をしっかりとしておきましょう。

次に、変動費、つまり販売費をどうにか削れないか、と考えましょう。

容器代や水道光熱費はわりとどうにもならないので、いじれるとしたら人件費です。
これは、創業計画書の5、7にも関連する内容となります。

ここで、さらに追い打ちをかけるかのように、悲観的なお話をしておかなくてはなりません。
それは、

「飲食のパートやアルバイトは、今日日、いくら募集しても人は来ない」

ということです。

他の国と比べて、日本の現在の有効求人倍率はかなり高くなっております。ちなみに2020年の全国全職種の平均有効求人倍率は1.18。仕事を探してる人より、人が欲しい企業の方が、ほんの少し多い状態、ということです。
労働者はこのような環境では、より時短で、よりラクで、より賃金の高い職を選り好みできることになります(というほど、1.18という数字は労働者有利ではないのですが)。長時間労働が常態化し、かつ賃金の安い傾向にある飲食業を選ぶパート・アルバイトさんは多くない、どころか少ない、と腹をくくるべきです。

ならば。
最初から、人がいらない、従業員が少なくてもきちんと回っていく店作りを考えていくべきなのです。
最悪、オーナー一人のワンオペでも回る、というとこまで覚悟する必要もある、かも知れません。

これが、他の創業計画の内容とどう関わってくるかというと、5はもちろんですが、7の「必要資金」を考える上で重要です。
必要資金の中でも、「物件」そのものについて。地代やデザイン料等について、です。

ワンオペでも回る店にするためには、ワンオペでも回るような店の構造になっていなければなりません。
例えばお店の広さなども、当初の想定より狭く見積もるべきでしょう。

あと重要なのは、クローズキッチンとオープンキッチンの差、です。

最近はオープンキッチン、つまりキッチンとホールが分かれておらず、お客の目の前で料理人が料理を行いカウンター越しにすぐに提供する、というスタイル(ラーメン屋さんを想像すると近いです)が人気です。
人気の理由は、料理が出来ていく姿を間近で見られるというライブ感、という面もありますが、なにより、小さい店なら料理人がそのままお客に(移動せずに)料理を提供できる、というやむにやまれぬ側面も多分にあると思います。

なので、人件費を削るなら、圧倒的にオープンキッチンが有利です。ほぼ必須、と言ってもいいくらいです。よって、クローズキッチンを想定している物件は自ずと対象から外れます。

ただし。
創業計画書1の想定で、
「ゆったりお客様がくつろげるお店」
「料理をサーブするホールスタッフをおくような、高級感あるお店」
などを想定しているとなると、ここで葛藤が生まれることになります。
双方を吟味し、どうしても「くつろげる」「高級感がある」お店を目指すならば、敢えて人件費を削るべきではありません。人が集まらないときは、いっそ創業自体を辞める、くらい思い切りましょう。
(そのための創業動機……「理念」だったはずです)
無理に少ないスタッフのままお店を回そう、とするのは悪手です。容易にお店がブラック化します。
ブラックなお店は、店内の雰囲気的に余裕もなくなりますし、従業員へのプレッシャーも生まれます。店員の疲れている様子は、絶対お客様にも伝わります。クレームや、ミスも目立つようになるでしょう。なにより、違法な就労をさせる、まで行って、仮に労基に入られ賠償問題にまで発展したりすると、金銭的ダメージだけでなく、お店の風評が地に落ちてしまうリスクもともないます。

スタッフがあるていど集まる目算が立ち、「くつろげる」「高級感ある」方向で押していくと決めたのならば、せめて従業員の「動線」に気を遣いましょう。
調理の際に、無駄に離れたところに調味料を置かないとか、ホールスタッフが調理場からホールに料理をサーブする際、最低限の動きで完了するとか、そのような細かいところを、「物件を選ぶ」段階から考えておくと、実際開店した後で効果を発揮するはずです。

さて。元の「ワンオペで回るお店」の話に戻ります。
物件の内部構造に気をつける他、なにが出来るか考えてみましょう。
たとえば洗い物が出た場合。皿洗いを雇うのではなく、食洗機に任せる。
焼き場担当を置くのではなく、コンベクションオーブンに任せる。
メニューを絞る。
手がかかりすぎるものは作り置きして温めるだけのレンジ調理を検討する。等。
人任せにする作業を出来るだけ機械に頼り、結果として人件費は出来る限り減らす方向でお店のグランドデザインを行う、というようなことが必要と考えます。

すると、当初想定したときより、購入もしくはリースしなければならない機材が増えるかもしれません。これは初期投資の増加を意味しますが、これによって人件費の減少が可能となるなら、どこかで初期投資増加はペイできるラインが現れるはずです。

さて。この見直しによって、当初想定していたコストが、以下のように


社 員 給 与:販 売 80→50
地代・家賃:一般管 20→18
保 険 料:一般管 2→5
リ ー ス 費:一般管 2→10

と変化したとします。
この数字をもとに、もう一度さきほどの限界利益率を求めてみましょう。

(売上) ー (仕入原価) ー (販売費) = (限界収益額)
= 300 ー 90 ー( 5 + 12 + 7 + 12 + 15 + 50) = 109 (万円)

(限界収益額) ÷ (売上) × 100 = (限界収益率)
= 109 ÷ 300 × 100 = 36.3 (%)

見事、目標は達成です。

まとめ
まとめ

人件費を削ったら、その分従業員が少なくてもきちんと回る店となるよう、グランドデザインからしっかりと見直しをしよう!

【営業利益額の確認】

念のためではありますが、限界収益額から固定費を引いた、営業利益額も確認しておきましょう。
修正後の一般管理費は、以下のようになっていると思います。

旅費交通費:一般管 3
広告宣伝費:一般管 30
社 長 報 酬:一般管 30
地代・家賃:一般管 20→18
通 信 費:一般管 2
接待交際費:一般管 3
保 険 料:一般管 2→5
リ ー ス 費:一般管 2→10

これらを全て足すと、101。限界収益額が109だったので、

109 ー 101 = 7(万円)

が、営業利益となります。

この額は、借入金の返済を一切念頭に置いてない、かつ、税金を考慮に入れてない状態、と考えると、かなり少ない額であることは否めません。
なので、固定費についても見直してみましょう。

まず、一般管理費、つまり固定費として広告宣伝費を月30万としていますが、個人店舗にこれはいくらなんでもかけすぎでしょう。最悪、自宅でプリントアウトしたチラシを自分でポスティングすれば、かかるのは印刷費用と紙代だけです。どんなに高く見積もっても1万円あれば足りるでしょう。
面倒なことは外注、は基本の考え方ですが、資金繰りの大変なシード期のお店にあって、自分の力でなんとかできるものは出来るだけ自分でやる、という発想も重要です。

地代・家賃についてもさらに見直してみましょう。
飲食店の物件として一番の理想は路面店です。歩道から一歩自動ドアをくぐればすぐに店の中、というのがお客もラクです。
次いで、2F店舗。その次が地下店舗、の順でしょうか。理由は、
「お客がしらふの状態で階段を昇るのか、酔った状態で昇るのか」
を考えると答えが出るでしょう。酔って階段を昇るのは少しキツいです。べろべろの同期を介助する役を負わされた、人のいい友人にとっても、それは同じです。
ちなみに、3F以上の店舗を選択するならば、エレベーターは必須です。とくにお酒を提供するお店の場合、3Fを階段で上り下りさせる、というのは、事故を防ぐ、という観点からも避けるべきシチュエーションかと思います。

そして、地代や家賃も、だいたい上記の順で安くなっていきます。もし路面店の物件が足が出るようであれば、2Fや地下店舗も考慮に入れて物件探しを行うとよいでしょう。
ただ、そうは言ってもあくまで「路面店最強」なのは間違いありません。安易に妥協して、蓋を開けてみればお客がこない、では目も当てられませんし。2Fや地下店舗を選ぶ際は、自店の街道からの視認性や、入りやすさ。多少の不便を強いてもお客を引っ張れるだけの強みなんかを、きちんと考えておきましょう。

また、駅近物件はたしかに飲食にとって強みではありますが、なんでもかんでも猫も杓子も駅近ならばよい、という考え方はどうでしょう。駅近は駅近に合った業態、というのがあります。格安居酒屋やラーメン屋、そば屋、ファストフード店などは駅近のアドバンテージをフルに利用できる業態と言えるでしょう。逆に、それ以外の業態であれば、徒歩3分圏内! というほどの駅近でなくとも、充分勝算を練ることができるはずです。……もちろん、駅からバスやタクシーを使わないとたどり着けない、という物件はいささか困りものですが、それでも二郎やアリランラーメン、食べログ日本一の柳家さんなど、むしろ不便さを売りにしてお客を呼んでいるお店だってなくはないのです。

さあ。ここでは広告宣伝費と地代・家賃にメスを入れました。
結果として、以下のような改善が成されたとします。

旅費交通費:一般管 3
広告宣伝費:一般管 30→1
社 長 報 酬:一般管 30
地代・家賃:一般管 18→14
通 信 費:一般管 2
接待交際費:一般管 3
保 険 料:一般管 10
リ ー ス 費:一般管 10

すると一般管理費合計は、先ほどの98が、73まで下がりました。
よって、営業利益36(万円)となり、税金支払や借入金の返済を行ったとしても、結構な額をプールできそうな塩梅となりました。

まとめ
まとめ

税金や借入金の返済分を支払ったとしても、充分な利益が店に残るよう、固定費を見直してみよう!

【1月客数・客単価について考察する】

先ほどペンディングしていた、客数と客単価についても掘り下げて考察していきます。
これらの数字が、たんなる思いつきではなく、妥当性がある数字を引っ張ってきていると、説得出来るくらいに確からしい数字でなければいけません。

一番いいのは、近隣の同業他社の数字を指し示すことですが、考えてみれば近隣に業態までそっくりな同業があることの方が問題です。ので、同じような商圏、同じような駅からの距離にある、できれば人口も似通った町の同業他社の数字を借りてくるとよいでしょう。

「こちら」のような飲食店リサーチ会社を利用する方法が、手っ取り早く正確でもありますが、自分で思う商圏のお店に出向いていって、コアタイムに張り付いてみて、注文数や客数など、実地で情報を仕入れてくる、という方法もあります。想像で補わず、根拠ある数字として出せるものにしておいた方が、融資担当者を説得しやすいと思います。

まとめ
まとめ

客数、客単価は、相手を説得出来るような、信憑性がある数字を自分で探してみよう!

さぁ。
あとは実際に、創業計画書を埋める作業です。
ノートに書いた情報から、本当に必要な情報だけを厳選して、創業計画書に載せていきます。
これらを実際に書いていくにあたって注意すべき点などは、次回のブログにて説明していきたいと思います。

本日もありがとうございました。

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