日本株と米国株(配当性向から見た)

Sebastian WagnerによるPixabayからの画像 4.投資

おはようございます。
今回のお話は、ちょっとした数学的な話が出てきます。
が、出来るだけこの数学部分は抜いた状態でお話したいと考えております。実際に詳しい数式等が知りたい、という方は、要所要所にリンクを配しておきますので、そちらをご覧下さい。

日本株と米国株、個別株投資をするならどちらか、というお話をしたのはこないだのことでありますが、日本株を選んだ方には、はなはだ残念なお知らせになるかも知れません。

PERについて

PER、という指標があります。ご存じ、株価収益率です。ひらたく言えば、
「現在の株価は、その企業の一株あたり利益の何倍か」
を示すものです。もし仮に、企業の配当性向(当期純利益の何%を株主配当に回すか)が100%だとしたら、PER10倍の株1株を10年もっていれば、その10年間の配当金合計でもう1株買えてしまう、ということです。

概してPERは低いほど、値ごろ感がある、ということになります。高配当株であれば、特に。
しかし、前回のブログでご紹介したこちらの本によると、

「ROEと割引率が同じであれば、PERには影響を与えない」

という結論になる、というのです。

DDM法による証明

これを説明しようとすると、DDM法という「配当割引を計算するための論理式」の理解が必要となるので、ちょっとやっかいです。
数学・計算に強い方は、是非上記のリンク先をご覧下さい。

できるだけ数式を使わないで説明を試みます。DDM法とは誤解を恐れずに言えば、
「配当に着目して企業の理論株価を概算する方法」
です。具体的には、細かい計算は飛ばしまして

理論株価 = 一株あたり配当金 ÷ (割引率 ー 成長率)……(1)式

となります。

割引率とは、「投資家が要求する収益率」に等しいと考えます。「株主資本コスト」という言い方をすることもあります。計算しようとするとわけわかんなくなります。

(1)式を発展させると、以下のようになります。

PER = 配当性向 ÷ (割引率 ー 成長率)……(2)式

この「成長率」(企業の株の、ナチュラルな価値上昇、伸び率)は、
ROE × (1 ー 配当性向)
と考えます。端的に言えば、「配当で配った残りは、企業が成長する原資である」ということになるかと思います。

この考え方を(2)式に代入すと、以下のようになります。

PER = 配当性向 ÷ [割引率 ー {ROE × (1 ー 配当性向)}] ……(3)式

(3)式だけを眺めていてもぴんとこないですが、結局、(3)式は、

「ROEと割引率が同じであれば、PERには影響を与えない」

という証明だ、ということです。

(2022/1/6 追記)

証明をしてみます。
(3)式両辺の逆数をとります。すると、

1/PER = [割引率 ー {ROE × (1 ー 配当性向)}] ÷ 配当性向
= 割引率 / 配当性向 ー (ROE ー ROE × 配当性向)/ 配当性向
= 割引率 / 配当性向 ー ROE / 配当性向 + ROE × 配当性向 / 配当性向
= (割引率 ー ROE)/ 配当性向 + ROE ……(4)式

となります。

ここで、(割引率 ー ROE)の値で場合分けをしてみます。

  • (割引率 ー ROE)が正のとき: (4)式の右辺は、配当性向が高いほど小さくなります。
    ※(割引率 ー ROE)/ 配当性向 の、分母が大きくなる → 値自体は小さくなる
    1/PERの値が小さくなる、ということは、逆数であるPERの値は逆に、大きくなっていきます。
  • (割引率 ー ROE)が0のとき: (4)式の右辺は、ROEとなります。1/PERの値は、ROEの逆数値となり、配当性向がいくらになっても、PERの数値に影響は与えません。
  • (割引率 ー ROE)が負のとき: (4)式の右辺は、配当性向が高いほど大きくなります。
    ※ (割引率 ー ROE)/ 配当性向 の値がマイナス(引かれる値)なので、配当性向が大きくなるほど、右辺全体は大きくなる
    1/PERの値が大きくなる、ということは、逆数であるPERの値は逆に、小さくなっていきます。

ところで、上式の「割引率」ですが、計算で求めるのは難しいです。
けれど、要は割引率とは「株主資本コスト」……株主が要求する最低限の収益率、と見ることが出来るので、この「割引率」はいわば投資家自身が求める数字と考えて良いと思います。

あなたは、個別株を所有することで年率何%の利益を求めますか?
年利5%~7%、といったところでしょうか。
もし仮に、7%と思ったならば、「割引率」の箇所を7%と置いて試算すればよい、と考えます。

(2022/1/6 追記 ココマデ )

日本企業株の絶望

これはかなり絶望的な証明であります。

  1. ROEが低い企業(ほとんどの日本企業)は、配当性向が高い企業ほどPERは高い。
  2. ROEがそこそこ高い企業(日本の優良企業5%前後)でも、配当性向を高めたところでPERに影響を与えることはない。
  3. ROEがある程度高くなって初めて、配当性向を上げるほどPERは低く抑えられてくる。

つまり。1~3の結論を合わせると、

「日本企業の大部分(ROE3~7%の企業)は、配当性向を上げたところで株主が恩恵を感じられない(ので、株主にとって意味がない)」

と捉えられる、ということであり、すなわち日本企業は、
「配当を出そうと腐心するより、配当性向を低めに押さえて財務強化した方がなんぼか得」
という意識になるべくしてなった、ということです。
いささか理論は飛躍しますが、「日本企業がなぜ内部留保ばかりするのか」の、配当性向に着目した場合の一つの答えである、と言えるかも知れません。

まとめ

これまでの結果をまとめると、究極以下のようになるかと思われます。

・日本企業は総じてROEが低い。ROEが低い企業は、株主配当に消極的でアタリマエ。
・配当性向が高い企業、かつ、株主にとって恩恵となる企業は、結局、高ROE企業。
・ROEが高い企業を見つければ、配当面から見ることで投資妙味が増す。

→なら、多少のボラティリティ、投資情報の遅さはあれど、個人投資家は米国株に手を出した方が早くないか?

そう考えてしまうのは、私だけでしょうか……。

というわけで、本日は以上となります。
ありがとうございました。

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