ナポリタン

業態研究 2.業態研究

おはようございます。
本日は、お店固有のメニューを離れ、一般的なお話をしていきたいと思います。

かつて……いまから三十年くらい前まで。
個人経営の喫茶店が多く存在しておりました。
スターバックスやベローチェ、タリーズなどの大手資本がチェーンのカフェを展開する、前のことです。
それだけ多くのお店が経営を維持出来ていた理由は、つまるところ、
「外出の際、座ってくつろげる場所を提供する」
という点にありました。
「くつろぐ」という言葉には、交渉とか、打ち合わせとか、あるいは単なる会話とか。そういうコミュニケーションの場として活用された、という面も含めます。

そして、そのような個人喫茶のお店では大抵軽食も提供しており、サンドイッチやトースト、カレーなどと並んで、必ずといっていいほど「ナポリタン」と「ミートソース」のスパゲッティが提供されておりました。

なぜ、「ナポリタン」と「ミートソース」だったのでしょうか?
ミートソースはまだ、分かります。上にかけるソースは作り置きが出来て、電子レンジがなくても温め直せば味は劣化しない。
究極、缶詰を開けて温め、そのままかけて出せばいいから、手軽である。
そういった理由です。
ではナポリタンは?

ナポリタンの具は、玉ねぎ、ソーセージかベーコン、ピーマン、マッシュルーム。調味料はケチャップ、麺はパスタ乾麺。
いずれも、冷蔵あるいは最悪常温でもそれほど劣化が進まない食材ばかりです。
調理も手軽で、切ってフライパンで炒めるだけ。提供速度も早い。
このへんが、当時の「キッチンスペースが狭く、大きな冷蔵庫を置けない」喫茶店事情に適っていた、と考えられます。
今でこそ、ナポリタンは「ケチャップのグルタミン酸、ソーセージのイノシン酸、ピーマンのピラジン、マッシュルームのグアニル酸が混合した旨みの相乗効果が……」というような理屈で、「非常に理に適った完成された料理」と紹介されることも増え、まるで敢えて最初から計算されて作られたかのような印象を受けますがなんのことはなく、喫茶店の台所事情との兼ね合いからしかたなく生まれ出たもの、という方がより実体に近いのでは、と思われます。

では現在はどうか、と言いますと。
個人喫茶はほぼ姿を消し、ナポリタンという料理だけが洋食店やパスタチェーン店、一部の定食屋に残されたのみとなってしまいました。
当時としては、ナポリタンという料理は、
「素材が常温保存出来、調理過程も少なくて済むメニュー」
として重宝されましたが。
電子レンジや冷蔵・冷凍技術が進んだ冷蔵庫などが普及した今となっては、「都度調理」しなければならないナポリタンはむしろ「調理過程が煩雑な、めんどくさい料理」となってしまいました。

ですので、今の我々は、料理屋の料理としてナポリタンを「優れたメニュー」として評価することは残念ながら出来ません(コンロ数や厨房スペース、人件費をある程度かけることが出来る中規模以上の飲食店を除けば)。
ナポリタンはあくまで、料理屋の料理、それも小規模な個人店の優れた料理としてどんなものを提供すべきかと考える時の、傾向とヒントをくれるメニューとして参考にすべきものだと思います。
その「ヒント」とはつまり、
「料理屋の料理は、出来るだけ『劣化の少ない材料を組み合わせ、短時間かつ効率的に』完成するものでなければならない」
ということです。

例えば某ファミリーレストランのように、調理済みの料理を全てストックとして冷凍保存し、都度電子レンジ調理のみで提供する、というような形式にすれば、調理人ごとの味のばらつきや人件費の問題、提供時間の問題などを全て解決できますが、結局大量に提供するためにはそれだけ大きな冷蔵庫とたくさんの電子レンジが必要になるわけで、場所の圧迫という問題をクリア出来ない。
そもそもオープンキッチンでマスターがレンジをいじるだけの調理過程を見せる店が流行るか、という問題もあります。

今現在の世の中で、喫茶店のナポリタン的要素を一番持ち、かつメジャーになっているメニューは、おそらくラーメンだと思います。
しかし。
ラーメンは既に店舗が多く供給過剰に陥り、新しい味を出すためには割高な材料を使わざるを得ず、骨を煮出す工程で調理ではなく「仕込み」段階で多大な労力と光熱費をかけざるを得ず、さらには昨今のインフレによる小麦高騰で安かった麺にも魔の手が及んでおります。
正直、現在出店業態としてラーメン店を選ぶというのは、よほど味に自信がない限り、自殺行為と思われます。

また、ごくごく最近まで流行っており、ナポリタン的要素をほぼ網羅したメニューに、「唐揚げ」がございます。
新規店舗にかかる出店費用が格安であることも知られはじめ、一気に広まりましたが、しかしこれもあまりに出店過剰であり、陳腐化へ一直線、という塩梅です。

ですので。
そろそろ私たちは、ラーメン・唐揚げに取って代わるような「ナポリタン」を模索する時期に来ているのではないでしょうか。例えば……。
今私自身がふっと思いつく、「ナポリタン」的メニュー。

それは、「チャーハン」です。

ただ、チャーハンはあまりにもありふれ過ぎて、それ専門で出すとなるとインパクトが弱すぎ、多分商売にはなりません。
何か、いいアイディアが浮かんだ方。是非、その一撃必殺メニューで、天下を取っていただきたいものです。

それでは、本日もありがとうございました。

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