牛モツ、牛スジからたどる「大衆飲食」の変遷

業態研究 2.業態研究

おはようございます。
本日は、牛モツ、牛スジから飲食経営を考えるというお話です。

飲食の中でも、比較的安価であることを前提に提供される「大衆飲食」のジャンルに話を絞るならば。
オーナーがまず考えるべきは、とにかく、「原材料が安価で入手できる」ということが最優先でありましょう。
季節を問わず、仕入れ値が変動せず、安定大量に市場に出回るもの。

それはたとえば、「廃棄されること前提の食材」であることが多いものです。

牛モツは、1990年代の、バブル崩壊直後から着目され始めました。牛スジも、とある青年向け漫画で取り上げられたのがだいたいその頃なので、人気食材となり始めたのは同時期なのかも知れません。
が、どちらの食材も、歴史自体はもう少し古く、例えば牛モツは、戦後まもなくの関西にて「ホルモン」という名前で提供されておりました。
「放る(捨てる)もん」だからホルモン、という、身も蓋もないネーミングは、いくつかある名前の由来の一つに過ぎませんが、関西特有の自虐的ユーモアセンスがこの名の由来を面白がって広めた、という向きもあるかも知れません。

ただ、バブル後に注目されたのは、関西経由の「焼き」ではなく、福岡由来の「鍋」としてのホルモン、牛モツでした。

臭みを上手に取ってやれば、タンパク質豊富で、野菜を多く摂れ、栄養価も高い。味もいいし、強いお酒にも合う。
その上安価とくれば、人気となるのもうなずけます。

かたや牛スジは、高級ホテルなど、フォンを一から取るような場面を除けば、提供する場自体が少なく、スーパーなどに置いたとしても購入するお客もほとんどいないため、いわば需要が小さすぎるという理由で廃棄されておりました。
それは一つには、牛のスジは熱を加えると凝固し、とても歯ではかみ切れない肉質となるため、これをきちんと調理する知識を持たない日本人にとって、どう遣っていいか分からない食材であったという理由もあると思います。

しかし、例えばデミグラスソースなどを作る場合は、この牛スジを煮込んだ香りが要となったりと、なくてはならない食材であったことも事実であります。実際、インターネットの普及で牛スジの正しい調理法や食べ方が広まると、牛スジ料理の種類もそれを饗するお店も爆発的に増えました。

これによって、ではどういう現象が起きたかというと。
牛モツも牛スジも、そのおいしさが知れたことで需要が膨らんだ。しかし供給量は、本来の「牛肉」消費量に相当する量、つまり牛肉供給量に比例する分しかなされず、需給のバランスから価格高騰が起こりました。

2023年現在、牛モツも牛スジも、100g単価は同量の豚ロースとそんなに変わらない価格となっております。

こうなってくると、話が変わってまいりますわけでして。
つまり、牛モツも牛スジも、ゆでこぼしたり長時間煮詰めたりと、調理に一手間かかります。
それで、仕入れ値が豚ロースと同等、ということであれば、素直に豚ロースを焼くなりして提供した方が「ラク」だ、ということになって参ります。

そうはならず、未だに牛モツや牛スジを出すお店が存続しているのは、ひとえにそれらが「本当に」おいしかった、ということでありましょう。
そういう、「食材の本来持っているポテンシャル」といいますか、「パワー」といいますか。
それを見抜くというのも、飲食店オーナーの技量の一つか、と私などは思います。

現在。当時の牛モツ、牛スジのような食材……安価に、廃棄同然のような形で出回る食材というのがあるか、と問われれば、いくつかはございます。
たとえば、生産調整やJAの規格に合わなかった、などの理由で廃棄される野菜、などです。

ただこれは、それを利用すればいいのか、というと、かなりグレーなお話となります。
本来、「きちんと規格された商品を流通させるための廃棄措置」なのに、単に安価だからと規格外を求められると、「規格外であること」に別の価値が生まれてしまい、「では規格とはなんなのか」という根源的な話となってしまうからであります。
安ければ何を求めてもよい、ということでもないのであります。

そういえば、小泉武夫という農大の先生がそのエッセイのなかで仰っておりましたが、
「魚のアラ屋、というものをすれば儲かるのではないか」
と。
魚屋が切って捨てるアラだけを買い付けて調理し、炊いたり焼いたりして提供するシステムだそうです。
着眼点は素晴らしいと思います。

鮮度の問題であったり、肉と違って「種類」が雑多に混じってしまう恐れのある「魚のアラ」を、味のばらつきなくおいしく提供出来る方法を思いつけさえすれば、いけるかも知れません。
例えば、大鍋で煮込んでスープとして、とか。

どなたか、この問題をクリアしてはいただけないでしょうか?

それでは、本日もありがとうございました。

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