バーニャカウダで考える「伝統」と「革新」

業態研究 2.業態研究

おはようございます。

バーニャカウダ、という、野菜を温かいソースにつけて食べる料理がございます。
ソースにはにんにくが大量に使われておりますが、にんにく特有のキツい臭いは、ほとんどないかほどほどに香る程度で、実に味が濃厚な素敵な味であります。

このバーニャカウダソースのレシピですが、使用する材料としては、にんにく、牛乳、アンチョビ、オリーブオイル、これぐらいです。塩分はアンチョビで調整し、牛乳でにんにくの臭いをおだやかにして濃厚な味わいだけを取り出した、というコンセプトでしょうか。

このバーニャカウダの、まず歴史について少しだけ触れておきたいと思います。
(参考:地中海フーズ 「バーニャカウダを徹底的に解説するページ」)
ピエモンテという、北イタリア山岳地方の郷土料理から発展したものがバーニャカウダです。
この料理にアンチョビが使われる理由ですが、これはリグーリア・プロヴァンスなどの沿岸地域から塩を仕入れる時に関税が多くかけられたことで、それならば関税のかからないアンチョビを仕入れることでこれを塩分として使用すればよい、ということからだそうです。

ただ、日本で流通しているいわゆる「バーニャカウダソース」は、現地の方によれば
「そのほとんどがまがいものである」
と、手厳しい指摘をされております。

ですが。
このバーニャカウダソース。
本当の伝統にならい作るならば、ちょっと変わった作り方をするのです。

それは、ソース作りをする際、まず始めに大量のむきにんにくをお湯で「ゆでこぼす」ことから始めるのです。

にんにくの栄養素の正体はアリインです。これが加熱されることでアリシンとなり、臭いは薄らいでほぼなくなります。そういう意味では「ゆでこぼす」ことで香りを抑える意図は分かるのですが、このお湯を捨ててしまっては、せっかく生成したアリシンも流れてしまいます。
いわば伝統に乗っ取ったバーニャカウダは、栄養素をみすみす「捨ててしまっている」ということになります。

このようなことをする理由を考えて見ます。
イタリアに限らずヨーロッパではにんにくはほぼ「加熱して食べる」ことになっており、日本のように生にんにくをすりおろしたりしてその刺激と鼻につく臭いを楽しむ、というような料理は「ほぼ」見当たらない、ということでした。
つまり、まずヨーロッパ人にとって、にんにくの香りは「マイナスの香り」だ、ということから始まります。
次に、バーニャカウダのとろりとした粘り気、というかとろみですが、これは茹でて芋状になったにんにくから発されます。このとろみは、ディップする際野菜によく絡み、かつ約束された旨みを伴っているため、にんにくを形が潰れるまで茹でる、という発想は理に適っています。

臭いを取り去り、柔らかくなるまで煮て潰す。
これをもっとも効率よく行うためには、「ゆでこぼす」という手段は確かに最適でしょう。

しかし。時代下って料理は「味」よりも「栄養素」「健康」ということにもスポットが当たるようになり、また「日持ち」「値段」「流通のしやすさ」などというファクターも「売れる」料理を作り出すためには重要となりました。

そうなると、「伝統を保つ」だけではとりこぼしてしまう「栄養」「値段」「日持ち」……などのファクターを補い、かつより優れたものへと進化する方へ、料理は発展していくべきなのです。

日本のバーニャカウダには牛乳、にんにく、アンチョビの他にも昆布由来のアミノ酸や煮干しエキス、たまねぎ等の香味野菜、酢、甘味料、増粘剤、ショートニングなどが添加されている、とのことでした。
これらを添加する理由は、ソースの「日持ち」や「品質劣化」を防ぐ意味もありましょうが、あるいは使用するアンチョビ(アンチョビは得てして高価ですので)の量を減らし、減らした味の減衰を補ういみでの添加、というむきもありましょう。これは明らかに「マイナス」の行為ではありますが、安価でそれでいて出来るだけ本家に近づけようとした「努力の結晶」とも言えます。

そしてそもそも、本家の伝統に則ったバーニャカウダという料理自体、高い関税から「塩の代替物」に『過ぎない』アンチョビを使っただけじゃないか、と暴論を述べることも出来ます。

ただ。
それがあまりにもおいしかったので、今日にたまたま残っている。
そして、残っている理由は、アンチョビを使ったからだ、とも言える。

伝統を守る、ということは、かつて食べられた味を、文化を守るという意味もあります。
が、別の観点で見ると、これまで重要視されなかった味以外のファクターを十分満たすためにあえて「革新」という改良を重ねることもまた必要なことである、とも言えます。

伝統と革新。これを車輪の両輪として、料理は発展していく。
そんなことを願った日でありました。

それでは、本日もありがとうございました。

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